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京都の未来を元気にする起業家たち|第7回 京信・地域の起業家アワード
地域の活性化に貢献した、創業5年以内の起業家を顕彰する「京信・地域の起業家アワード」。第7回は、応募総数108件の中から、10社が優秀賞を受賞されました。来場者投票で最優秀賞を決定する毎年恒例のイベント「京信起業家 EXPO」は、新型コロナウィルスの影響で残念ながら中止に。代わりに、優秀賞を受賞し、プレゼンを行っていただいた企業のうち3社のお話をご紹介します。
AI、インド、社会起業家支援とそれぞれの分野で活躍する3名のお話に、参加者は熱心に耳を傾けていました。質疑応答の時間には、オンラインでも様々な質問が寄せられました。株式会社データグリッド 代表取締役社長 岡田 侑貴さん
株式会社ジャパンディア 代表取締役 伊勢 司さん
株式会社taliki 代表取締役 中村 多伽さん
AIを未来のインフラに ー 株式会社データグリッド
トップバッターは、株式会社データグリッドの岡田 侑貴さん。AIの技術開発を行うベンチャー企業として、新たに開発されたサービスやAIが作る未来について、お話しいただきました。
「AIが社会のインフラになり、水道やガスのような当たり前の存在として、人の生活に恩恵をもたらす。そんな未来を作りたい」と岡田さん。具体的な開発事例として、実在しない人物を自動生成したバーチャルモデルの提供サービスを紹介。広告やファッション通販業界の利用を見込んでいます。さらに、医師の画像診断をサポートする疑似医療データの作成、画質の悪い動画や画像を高解像度化する技術など、様々な角度からAIの可能性を語りました。車の自動運転を支える仕組みとして、車載カメラに付着したゴミや汚れを認識し、それらを消去した動画を自動生成する技術についてもご説明いただきました。プレゼン終了後は、参加者からの質問にお答えいただきました。
──新しい分野なので、法整備が追いついていないと思うのですが、どのような対策をお考えでしょうか。例えば、AIで作った人の顔は個人情報として扱われるのか、自動認識でゴミを取り除いた映像は、事故の際に裁判での証拠材料になるのか、など。考えをお聞かせいただきたいです。
岡田:ご指摘のとおり、法整備はまだまだ追いついていません。肖像権やプライバシーなどの権利関係、知財関係など、専門領域の違う3名の顧問弁護士と相談をしながら法対策を進めていますが、新しく開発した技術に関しては、違法・合法を判断するための法律自体が存在しないことも多いです。弁護士の方々は現行の法律の範囲内でしか判断ができないので、法整備について提言を行える大学の先生と議論をさせていただくことも多いです。
──AIの自動生成技術は、映画や絵画など芸術作品の修復にも役立つと感じました。作家の作風をAIに学習させて、失われた作品を蘇らせることができた場合、著作権の問題が生じるように思いますが、いかがでしょうか。
岡田:既存作品の修復については、著作権者の了承を得れば問題ないと考えています。一方で、私たちが新たに生成したものが既存作品に類似している場合は、著作権侵害になる可能性が大いにあるので、気を付けたいところです。リスク回避のために、現在一定の作品とは似ないようにデータを作る技術を開発しています。
日本とインドの可能性を繋ぐ「インド屋さん」 ー 株式会社ジャパンディア
続いて、株式会社ジャパンディアの伊勢 司さんにご登壇いただきました。
「何をする会社ですかと聞かれたら、“インド屋さん”と答えるようにしています」と語る伊勢さん。インドからの旅行者をサポートするインバウンド事業、インドに進出する日系企業の交渉や通訳を請け負うアウトバウンド事業、京都市内で「インディアンレストラン・ティラガ」を運営する飲食事業の3つを柱に、日本とインドを繋ぐ多彩な取り組みを展開されています。
学生時代に訪れたインドでのフィールドワークの経験を皮切りに、インド人旅行者を受け入れる際に注意すべき宗教的な食事情や、インドの地域ごとの食文化の違い、人口ボーナス期(人口に占める生産年齢人口の割合が上昇し、経済が成長しやすい時期)にあるインドの巨大市場の魅力などが語られました。
最後にスライドに映し出されたのは、本アワードへの応募時に伊勢さんが提出された手書きの書類。「地域の金融機関に求めることは何ですか」という問いに対し、「共に成長していける関係性の構築です」と書かれています。「明確な答えのない問題こそ、企業が最も頭を悩ませる部分であり、サポートが必要だと思います。去年これを書いた時は、QUESTIONの構想は全く知らなかったんですけどね。まさに悩みを一緒に解決できる場所を作ってもらえて、嬉しいです。私も何か力になれたらいいと思っています」と締め括られました。
──インドの方には、日本のどんな場所やものが人気ですか?今お手伝いしている会社が、オンラインで日本の旅行の疑似体験ができるサービスを作っています。インドは格差が大きい国なので、どのあたりのマーケットを狙えばいいのか、ぜひアドバイスをお願いします。
伊勢:日本のアニメ文化は人気がありますね。デリーやムンバイなどの都市部にはコスプレを楽しむ数千人単位のコミュニティが存在していて、定期的にイベントが開催されています。現地ではコスプレの道具が手に入りにくく、日本の通販サイトからの購入も多いんです。アニメの展示会などをオンラインで開催すれば、興味を示す方はたくさんいると思います。
──インドは技術力も労働力も豊富なので、ビジネスは国内で完結できてしまうのではないかと思っています。日本人にとって、インドのマーケットにはどんなチャンスがあると考えられますか。
伊勢:インドのビジネスシーンは英語が公用語なので、英語を母語とする国が圧倒的に強いです。日本から新たに進出するとなると、厳しい戦いになるでしょう。ただ、日本の技術やサービスをインドの市場にうまく合わせていくことで勝機を掴んでいる日系企業もたくさんあります。成長を続ける巨大なマーケットは魅力的ですし、諦めてしまうのはもったいないと思います。
──インドは多民族国家でそれぞれ文化が異なると思いますが、食事情はどのくらいのパターンに合わせておられるのでしょうか。
伊勢:宗教で分類するのが一番わかりやすいと思います。約8割を占めるヒンドゥー教徒の方は、牛肉を食べません。次に多いイスラム教徒は豚肉を食べられず、他にジャイナ教徒、仏教徒、キリスト教徒がいます。ジャイナ教が最も厳しく、肉や魚に加えて根菜類も口にしません。カレーによく使われる玉ねぎやニンニクも食べられないので、注意が必要です。
社会課題を解決する人材を支援 ー 株式会社taliki
「あなたの愛する人を1人思い浮かべてください」という呼びかけで始まった、株式会社talikiの中村さんによるプレゼンテーション。続いて「その人が明日、死んでしまったら」と問いかけられ、参加者は様々な表情を浮かべながら彼女の話に聞き入ります。
世界のあらゆる社会課題の解決を目指し、社会起業家を支援するtaliki。「社会課題ってなんでしょうか」「こんなに困っている人がいるのに、なぜ社会課題は解決しないのでしょう」と中村さんが会場に問いを投げかけ、参加者一人ひとりの考えを聞いていきます。
「社会課題は増加し、多様化し、細分化しています。解決するためには、当事者ではない人たち、困っていない人たちが課題を解決したくなる仕組みが必要です。社会課題に取り組む人の数を増やし、社会全体としての課題解決力を向上させることが、私たちのミッションです」と中村さん。起業家支援プログラムや、同社が支援する企業の活動実績などが紹介されました。
──社会課題の解決がどう進んでいるかについて、事業に関わった人数やユーザー数を挙げておられましたが、他国でも一般化できるようなエコシステム(ビジネス生態)の評価方法があれば教えてください。
中村:社会課題解決をどう計測するかという議論は世界各国で起こっていますが、国連の見解では「評価可能なものと不可能なものがある」とされているのが現状です。国ごとの計測もなかなか難しいんですよね。例えば、日本には国際協力団体がたくさんあるので、日本の解決能力の高さが他の国の課題解決を促進しているケースもあります。私たちが事業成果を測る際には、内容にもよりますが、ユーザー数などの関与人数や、一般消費者による消費額を目安にしています。
──社会課題を解決する企業を応援するだけでなく、talikiさん自らが課題解決を実践することは考えておられますか。
中村:私自身はプレイヤーでいる方が楽しいのですが、今は現場で活動する人を応援したり、社会構造を変える立場の方に提言することが必要だと思っています。私は学生の頃、カンボジアで小学校建設を支援する事業に参加していました。学校を建てることは1つの課題解決なのですが、それだけでは、経済的な理由で通えない子どもがいたり、先生の質が悪かったり、その先にある個々の課題には全く手が届かないことに気付いたんです。しかも、そういう規模の小さな課題の方が、構造的に根が深いと感じました。その経験から、社会の構造にアプローチするためにアメリカ留学中は現地の報道局で働きました。そこで目の当たりにしたのは、政策は統計的な情報を元に作られるので、実際に困っている人々の声を細やかに反映するのは難しいという実情でした。より多くの社会課題を解決するには、課題解決に取り組む人の数を増やし、育成する必要があると感じました。その経験が、今の事業に繋がっています。
最後に、京都信用金庫 企業成長推進部長の平野よりご挨拶をさせていただきました。「お三方の素晴らしいパワーを感じました。これからも、今日の質疑応答のようにたくさんの問いを投げかけていただき、世の中を少しでもよくしていけたらと思います」という結びの言葉を受け、会場に大きな拍手が響き渡りました。
イベント終了後は懇親会を開催し、和やかに交流を深める時間となりました。優秀賞を受賞された10社は京都信用金庫のページでご紹介しています。ぜひご覧ください。
株式会社データグリッド https://datagrid.co.jp/
株式会社ジャパンディア https://japandia.jp/
株式会社taliki https://www.taliki.co.jp/
文・写真:油井 やすこ