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今回お話を伺ったのは、QUESTIONのCommunity Memberの田貝 雅和さん。田貝さんは株式会社 TBWA HAKUHODOの「Disruption Strategist」として、同社が提唱する新しい価値創造のための哲学・メソッド「Disruption®」を用いて、事業のブランディングや企画立案を手掛けています。また、会社の活動と並行して京都では月光観測所を運営。江戸時代、暦づくりのために月を定点観測する天文台があった月光町で、町家を訪れる人々に自分を定点観測する機会を提供しています。
2022年より、東京から京都に移り住み、二都市を行き来しながら生活する田貝さんが京都とQUESTIONに見出した価値とは?
●田貝 雅和(たがい まさかず)さん
株式会社 TBWA HAKUHODO
月光観測所
TBWA HAKUHODOでは様々な規模・業界のクライアントにビジョン実現の支援をするDisruption Strategistとして活動しながら、カルチャートレンドの分析をするbackslashのチームをリード。京都で立ち上げた月光観測所では訪れる人々に自分を定点観測する機会を提供している。
●QUESTION コミュニティマネージャー 川上 哲典
自分自身と向き合う時間を求めて京都へやってくる人が結構いる。
川上:東京の外資系企業にお勤めの田貝さんがなぜ京都に来られたのか、改めて聞きたいんですが。
田貝:コロナ禍でフルリモートでの勤務になったときに、東京にいながらずっと家にいる期間があったんです。その時に、あまり東京にいる必要もないのかなって思って。正直に言うと何となくですよ。何となく東京以外のどこかに住んでみようかなと。いろいろ旅行した中で、なんかいいなと思ったのが京都でした。2022年の祇園祭にきたとき、よさそうな物件が見つかって、そこから移住しました。「なんとなく移住」です。
川上:実際に京都で暮らしてみてどうですか。
田貝:とても住みやすいですね。街の規模が東京と全然違ってコンパクトです。今日もQUESTIONまで地下鉄で来たんですけど、15分ぐらいで着きました。
──田貝さんが京都にやってきて、QUESTIONを知った経緯もお伺いしていいでしょうか。
田貝:QUESTIONの存在は祇園祭を見に来たときから知っていました。QUESTIONって目立つところに建っているじゃないですか。あのハテナのいっぱい付いたビルはなんだろうと思っていたんです。京都に引っ越してきたタイミングで知り合いに「京都に行くんだったらQUESTIONに行くのがいいよ」って勧められて、行ってみて「あ、このビルがQUESTIONだったんだ」って。
川上:そのときコワーキングスペースをドロップイン利用していただいたんですよね。
田貝:はい。コミュニティマネージャーさんとおしゃべりしていたら、その方が川上さんを連れてきてくれて、川上さんと話してたらそこに京都市の方が来て、「Kyo-working」のことを教えてもらったりして。その日のうちにQUESTIONの会員になりました。
川上:京都でこんなことできたらいいなって考えていたことはあったんですか。
田貝:それがあまりなくて。住むうちにだんだん「なんかいいな」の正体が見えてきている感じがあります。やりたいことについても「とりあえず行ってみるか」って行ってみたら、結果的に自分が面白いと思えることができている。後から見つかるこの感覚が「京都っぽい」と感じています。
川上:田貝さんが何となく見えてきたっていう京都の「なんかいいところ」ってどんなところか聞いてみたいです。
田貝:QUESTIONや川上さんに代表されるように、人をいろいろ繋いでくれるところ、人と人との縁を非常に大事にしているところです。あとはやっぱり文化を感じるところ。私が今住んでいる場所の近くに月光町っていう町があるんですけど、地名の由来は江戸時代に天文台があって天体観測をしていたからなんです。常に歴史と共存していて、いろんな時間の層が流れてるのは京都ならではだなと思います。
田貝:月光町で古民家の町家を借りたんですけど、江戸時代に天体観測をしていた場所なので、令和の今、観測するんだったら何ができるんだろうと考えているところです。一つ考えているのが、その町家を自分を定点観測する場所にすること。いつ訪れても変わらない場所だからこそ、変わった自分に気づくことができる。こうして自分を定点観測する場所にすることに意味があるんじゃないかなとか思っています。
川上:自己理解を深めるっていうイメージですかね。
田貝:そうですね。キャリアアップだとかスキルアップだとか、周りが求めるものに合わせて自分をどんどん変えていくことが正解の世の中で、変化に自覚的になれるかどうかで今の自分の受け取り方って変わってくると思うんですよね。私の知り合いでも自分自身と向き合う時間を作りたいといって定期的に京都にやってくる人は結構いますよ。
京都ってせわしなく仕事をするところじゃない。それこそが京都の価値。
──こうやって鴨川をゆっくり歩きながら田貝さんのお話を聞いていると、鴨長明の「方丈記」の一節を思い出します。
田貝:まさに。今から800年ぐらい前に鴨長明が鴨川を見ながら綴ったのが「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」というあの一節です。当時の京都って火事とか飢饉とか多くの災害に見舞われていて、その中で鴨長明は、人間の一生は儚い、でもその中で自分自身の幸せを追求できる余地があるんじゃないかと思って方丈記を書いたと言われているんですけど、その考えってまさに今の日本においても人ごとではないというか、考えさせられる話だと思うんです。
田貝:東京のことをネガティブに伝えるつもりはないんですけど、東京の速度だと、ものごとをどんどん新しいものにしようとしてしまう。京都だと800年前の人が残したものがあって、その中に現代にも通じるヒントがあったりする。そういうものがまちの中に自然と存在している状態が京都の面白いところなのかなと思いますね。
川上:僕らはいつもせわしなく仕事してるけど、田貝さんから見たら、京都ってそんなせわしなく仕事するだけのところじゃないよ、そこに価値があるんじゃないの?ってことですよね。働くだけなら東京でもいいじゃん、と。
田貝:ビジネスって「business = busy – ness」と書きますよね。つまり、忙しいことが前提の営みなわけです。忙しいって漢字にすると心を亡くすって書く。心をなくすことが前提の営みっていうのは、わかっちゃいるけど面白い。
──田貝さんは普段QUESTIONでどのように過ごされているんですか。
田貝:デスクワークを目的に来ることってほとんどなくて、東京から来た知り合いを川上さんに紹介するとか、あとは京都の人と打ち合わせするとかですね。
川上:それが、面白い人ばっかりなんですよ。僕が東京に行ったときは、田貝さんに紹介してもらった方とお会いさせてもらって、双方向間で人が行き来して縁が広がっているのが良いなって思っています。
田貝:ぜひこの機会にお伝えしたかったんですけど、京都に来たタイミングで川上さんと出会っていなかったら、自分の京都での暮らし方、あり方が結構変わっていたと思います。非常にいい影響を与えていただきました。川上さんに会っていなかったら「京都をつなげる30人」(※)にも入ってないので。
(※)2019年に締結した京都市とSlow Innovation株式会社との連携協定に基づき、「京都の市民協働イノベーションエコシステムをつくる」、「京都の脱炭素をコレクティブインパクトで実現する」などをグランドテーマに、京都市、京都市内のNPO、京都市で活躍する企業の信頼のつながりと、それに基づくイノベーションプロジェクト。詳細はこちら。
川上:縁って不思議なもので、「京都をつなげる30人」の打ち合わせをしていたときに偶然田貝さんがいらっしゃって、今回のテーマである「京都の外と内を繋げる」を体現されてるのが田貝さんだということで、参加していただいたんです。
「京都をつなげる30人」での発表風景。
田貝:あれもあの場にいなかったら参加していないし、今ごろ鴨川の音楽も作ってないので本当たまたまって感じですよね。
川上:最近、会いたいと思う人と偶然出会えるんです。特にQUESTIONに来てからめちゃくちゃ多い。そもそも京都が狭いからなのか。東京は人が多いから難しいのかな。
田貝:それはあると思います。京都って街中を歩いていても、たまたま会うってことが多いんで。「たまたま力」がすごく高いまちな感じはしますよね。
川上:ある意味、QUESTIONが人の溜まる場所になっているのかな。
「鴨川に来ることで自分の時間を取り戻すことができる」その魅力を音楽に。
──田貝さんの「京都をつなげる30人」での活動について詳しくお伺いしてもいいですか。
田貝:これも偶然なんですけど、メンバーそれぞれが関心のあるテーマを決めるとき、人数の都合でたまたま鴨川チームに入ったんですよ。ただ、鴨川は前からなんかいいなとは思っていたんですよね。で、鴨川チームに入ったことをきっかけにその魅力って何なんだろうなということを考えてみました。
田貝:シートを広げて寝ているおじさんとか、馬頭琴を練習しているご夫婦とか、鴨川にいる人たちのやっていることはバラバラだけど、共通点としてそれぞれが自分の時間を過ごしている。「なんかいいよね」の「なにか」はそこなんだと。自分の時間を過ごすことができる、自分の時間を取り戻すことができるっていうのが鴨川の魅力なんだと思ったんですよね。
川上:田貝さんのいう、鴨川で自分の時間を取り戻すっていうのがまさにこうやって鴨川を見ながら話している時間のことなのかな。
田貝:普段誰かが決めたスケジュールの上で動いてるからこそ、自分の時間を取り戻してるっていう感覚が気持ちいい。話題の「タイパ」(タイムパフォーマンス)っていうのも、他者の時間に侵されている人が自分の時間を取り戻そうとするための意識なんじゃないかな。そこで自分が鴨川に感じていた「なんかいい」という感覚と「時間」という切実なテーマが接続したんです。
田貝:人は鴨川に来ることで自分の時間を取り戻すことができるんじゃないか。そこで、遠くの人にもそんな鴨川を届けたい。届けるのは、鴨川のなんかいいよねっていう感覚で、それを五感のうち「音」で形にしてみようと、御池大橋から三条大橋までの間の鴨川を曲にしてみました。
田貝:このプロジェクトはひと区切りついたんですけど、仲間を集めて他の橋の曲も作りつつ、作曲ワークショップとか徐々に活動を広げていこうかなと思っています。
いただいた縁を縁で返す、恩返しならぬ縁返し。
川上:最初、京都に出てきた目的はそんなになかったっていう話だったと思いますが、結果、出てきてよかったですか。
田貝:よかったと思いますね。それこそ京都のたまたま力のおかげかもしれないですけど、たまたま何か自分が面白いと思えるものに出会って、面白いと思える人と面白いことができている。実際京都に住んでみて、得た縁を大事にするというところや、時間を大事にするところ、歴史からヒントを得る考え方って、東京のような忙しさを売りにするスタイルの中では出てこなかったりするので、京都的な価値観をTBWAのグローバルネットワークに対して発信することも意味があることだと思っています。
川上:京都の時間軸の価値をわかっていて、実行している京都人もあんまりいないと思うので、それを田貝さんの鴨川のプロジェクトなどを通じて京都の人たちにも伝えてほしいですね。
川上:田貝さんっていう面白い素敵な人が京都に来てくれて、その人が京都のコミュニティのいろんな人と繋がって、田貝さんがインプットしているものが京都でアウトプットされるっていう状況はすごくいいなと思っています。だから、もっと京都の人と接続するきっかけをQUESTIONで起こしていきたいです。
田貝:川上さんやQUESTIONとのつながりで、社会的な肩書きを持った状態ではあんまり通ずるところがない、普段だったら絶対遭遇しないような人と出会える。私の知り合いが東京から京都に来るときに、まずQUESTIONと川上さんのところにお連れするのは、いただいた縁を縁で返したいと思ってそうしているところはあります。恩返しならぬ縁返し。
京都には、次の時代のヒントになる価値観がいっぱいあるはず。
田貝:2024年始めに、日本は2100年に人口8000万人を目指していくとの有識者提言があったように、今までの右肩上がりの成長を目指す発想だけだと立ち行かなくなる世の中になると思っていて、でもその答えって誰も見つけてないんですよね。
田貝:京都が1300年近く残り続けているところに次の時代のヒントになる価値観が多分いっぱいあると思いますし、世界もいずれ人口増が止まって日本のあとに続くような形になっていくので、世界にとっても同じく何かヒントがあるんじゃないかな。京都にいる一員として、何か見つけて伝えていきたいなとは思っていますね。
川上:これからの時代ってすぐそこまで来ているんだろうなというのを最近の若者を見ていてよく感じるので、QUESTIONにいる学生さんを誘って田貝さんと一緒に鴨川でブレストでもしましょうか。
田貝:京都ってそういう問いにあふれるまちだなと思うんですよ。東京ができるだけ速く答えを出すことを求めるんだとしたら、京都はできるだけ深く、その問いを突き詰めることを大事にしている。私は答えを出すことよりも問いを出すことが非常に大事だと思っていて、問いを深めていくことが個人的にも非常に好きなので、京都に惹かれるものがあるのかもしれないなと思います。そして「QUESTION」に導かれたのもまさに問いがあったからなのかと思います(笑)。
──これからのQUESTIONに期待していることなどあればお聞かせください。
田貝:QUESTION自体が変わる必要はないのかもしれないんですけど、もし観光で京都に来た人がふらっとQUESTIONに来て、私が得た縁のようなものを持ち帰ったらどうなるんだろうなっていうのは気になりますね。
川上:いいですね。旅の目的が人との縁で、人との縁を求めてQUESTIONに寄るみたいな感じですね。例えば京都に移住を希望しているけど何もわからないっていうときに、QUESTIONで縁をつむぐことができれば、その人たちが移住するきっかけにもなりますよね。
田貝:まさにQUESTIONは京都の関係案内所です。そういう旅を求める人が増えるとどうなるのか、興味深いです。
(写真:QUESTION コミュニティマネージャー 石津亮)
▼京都・かもがわを音楽でつなぐプロジェクト「かもがわミュージック」
田貝さんが手掛けた、鴨川に来たことがある人が共通して持っている「鴨川ってなんかいいよね」という感覚を場所や時代を越えて届ける「かもがわミュージック」は、Youtubeでどなたでもお聴きいただけます。
「かもがわミュージック」の活動を広げていくため、クラウドファンディングを実施中です。ぜひご覧ください!
・「京都にルーツがある数千万人とつながりたい!かもがわ発の新しい音楽レーベルをつくる」(かもがわミュージック制作委員会)
https://for-good.net/project/1000726
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