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個人的な欲求を大事にすることが、社会貢献につながる│問いのデザイナー×eumo×minitts×京都信用金庫
待ちに待った、QUESTIONのこけら落とし。会場とオンライン合わせて約130名にご参加いただいたこの日は、web上で参加者の方々からコメントをいただきながら、イベントを進めていきました。「皆さん、どんどん質問を書いてくださいね。なぜなら話す内容が決まっていないからです!」という呼びかけでトークセッションが始まるという、なんともQUESTIONらしい展開に。中盤に寄せられた「京都でイノベーションを語ると哲学になるんですね」というコメントが、数日経った今も、胸に余韻を残しています。いったい、どんなお話が繰り広げられたのでしょうか。
京都大学総合博物館 准教授 塩瀬 隆之さん(モデレーター)
株式会社eumo 代表取締役 新井 和宏さん
株式会社minitts 代表取締役 中村 朱美さん
京都信用金庫 理事長 榊田 隆之
「好きなことを仕事にしたら食べていけない」という高校生の発言
──今日は、榊田さんから「好奇心」というキーワードをいただいているので、まず皆さんに興味のあること、好きなことを聞いてみたいと思います。
中村:最近は、タンパク質ですね。今、自分のからだを使って、体重や筋肉をどれくらいコントロールできるのかという実験をしていて。その結果、体重は7kg、体脂肪率は7%、落とすことができました。好きになると、とことん突き詰めてやる性格なんです。自分でやってみてうまく結果を出せたので、そこから飲食店である「佰食屋」とは全く違う新規事業を立ち上げようとしています。
新井:僕は雪が好きで、あのね、犬よりも興奮できるんですよ。スキーの指導員もしています。真っ白な世界が大好きなので、早く本社を北海道のニセコ町に移転したくて。さっきその話をしていたら、本社の場所が1年ごとに変わってもいいんじゃないかという声が出てましたね。旅する企業っておもしろくない?って。
榊田:人と話すことが好きです。子どもの頃からずっと、ワクワクすること、心が動くことだけをして生きてきました。親に感謝しないといけませんね。今も毎日、出勤するのが楽しくて仕方ない。だから今、一番好きなのは、このQUESTIONです。
──僕は、座右の銘が「好奇心のもとでは皆平等」なんですよ。人の好奇心をどうやって引き出すかを考え続けています。子ども向けの場作りやイベントの仕事も多いのですが、高校生に「好きなことを仕事にしたら食べていけないんですよね」って言われたことがあって。挑戦する前から、失敗したこともないのに周りの大人を見て諦めちゃってるんです。それが、すごくもったいないと思いました。
中村:その問いに、自分の経験から「そんなことないで!」と答えられるメンバーが、今日は集まっていますよね。
個人的な感情や欲求を抑えないと、社会課題は解決できないのか
──ここにいる人たちは子どもの好奇心を持ったまま、大人になった感じがしますね。そこで、皆さんに聞きたいんです。多くの人が、好奇心のような個人の欲求と社会課題は、対極にあるものだと捉えています。そこに折り合いをつけて働くべきだと。個を抑えないと社会貢献はできないのか、という問いについてはどう思われますか?
中村:私は、すごく個人的な「晩ご飯を家族と一緒に食べたい」という欲求から、佰食屋を始めました。結婚した当初は、夫も私も仕事がすごく忙しくて、休みも合わないし、食事もほとんど別々で。だから、1日100食限定の飲食店をつくったんです。その思いに、色んな人が共感してくれました。
今はまた、コロナ禍で新しい欲求が生まれています。私はめちゃくちゃ怖がりで、地震や台風などの災害に年がら年中怯えているんです。下の子が脳性麻痺で、長時間走れないこともあって。今の感染予防が必要な状況で、避難を迫られたらどうしようって思いませんか?私自身が安心して日々を過ごしたいがために、防災に関する事業にも、新たに取り組もうと思っています。「もっと知りたい」「もっとやりたい」という好奇心や欲求が根っこにあると、モチベーションが枯渇することがないんですよ。ずっと頑張れる。動機は不純な方が前に進みます!
──それは間違いないですね。絶対に譲れないから。
新井:自分がやりたいことを大切にしながら、社会とつながる接点を探っていく。それが、生きるということだと思います。僕は以前、ファンドマネージャーという肩書きで働いていました。でも、その仕事があんまり好きになれなかったんだよね。お金はたくさん稼げたけど。当時、「プロフェッショナル」というテレビ番組に出演して、周りからは、すごいねってたくさん言われました。でも、自分としてはそこで描かれた出来事がすごく悔しかった。応援したかった企業に、投資できなかったんですよ。それなのに、自分のしていることが社会的には“成功”として扱われて、どんどん苦しくなってしまって。本当にやりたいことをできる仕組みを考えた方がいいと思って、仲間とeumoを作ったんです。他の人が定義する成功を、自分の成功にする必要はない。
──やりたいことが社会につながるって、信じきれていない人が多いのかもしれないですね。榊田さん、今のお話を受けて、QUESTIONで今後どんなことが起こっていくといいのでしょうか?
榊田:それはわからないです。人と人が偶然出会って、交流して、何が起きるかは、こちらで決められないから。設備はお金さえあれば誰でも作れるので、その中で人がどう動き回るかが大事ですよね。ここで横になって、昼寝している人がいてもいいと思う。
──「わからない」ことに敬意を持って向き合う姿勢は、すごく大事だと思います。人はわからないと不安だから、解決したふりをして何らかの答えを置こうとしてしまうので。現代社会は、何にでも目的や予測が求められますよね。だから、何の条件もない状態で、ただ話を聞いてくれる相手が貴重なんです。そういう信頼関係が少なくなってきているから、多くの人が自立しようと焦って、孤立してしまう。人に頼ることも、本当は大事な力なのに。
中村:QUESTIONはまさに、そういう関係を築いていく場所ですね。でも、このビルを作るって、すごく勇気がいることだと思う。私たちみたいな経営者は、ついつい、どう考えても儲からないなっていうお金の計算を頭の中でしてしまうんですよ。ただ、お金にならない事業なんてやる意味がないという社会の空気は、今もう変わりつつありますよね。そこに先陣を切ってQUESTIONができて、「お金より先にもっと大事なことを考えよう」というメッセージを体現している。
新井:元銀行マンの僕からしたら、ありえないです。支店が1階じゃなくて、6階にあるんですよ。東京にもここまで振り切った事例はないですね。ぜひ、ここと世界をつなぐ仕組みを作って、世界中の課題に対して解決のアイディアが生まれるような場所になっていただきたいです。
榊田:収益度外視っていうわけではないんですけどね。でも、今までよりもはるかに長い目で見て、循環を生むことを考えようと思っています。心が通い合って、信頼関係の上に適正な利益が生まれることを大事にしたい。これまでの資本主義社会には、利益を上げるためにお客様を利用するような側面がありました。そうじゃない方法があることを、証明していきたいです。
お金を超える何かが人を幸せにする
中村:新井さんのeumoも、利益が出るのは多分すごく先ですよね。webサイトを拝見して、20年先を考えた事業だなと思いました。
新井:人って、自分でお金を使うよりも、他の人に“ギフト”する方が幸せになれるんですよ。だったらギフトしかできない仕組みにしちゃえばいい、という発想でeumoを作りました。安ければいいっていう思考だと、他人と奪い合うしか手段がないから、幸せにはなれない。経済格差は、お金がたまることで生まれます。たまらないお金をどうデザインするか、ということが大事だって気づいたんです。だから、eumoで決済した後にはお金は残りません。残るのは関係性だけ。
利益はね、後からついてくるんですよ。そして、そういう社会実験をしていると、若い人が注目してくれます。彼らがeumoからヒントを得て、もっといい仕組みを作ってくれるかもしれない。たとえ無謀でも、挑戦する姿勢を見せるのが大人の役目だと思います。
中村:これからの時代は、共感がキーワードになることは間違いないと思っています。私たち飲食店は、コロナ禍の影響を受けて大変なことになりました。でも4月にテイクアウトを始めた時に、電話のみの受付だったにも関わらず、毎日、午前中で100食が完売したんです。地元のお客様が、応援しようという気持ちで行動を起こしてくださったことが、とても嬉しかったです。周りを見ても、ファンのいるお店はちゃんと生き残っています。大事なお金を“誰に”支払うのかという選別を、一人ひとりがはっきりと意識するようになってきましたね。
──参加者の方からも「お金より大切なものは何ですか」という質問をいただいています。榊田さん、いかがでしょうか。
榊田:私の原体験をお話ししますね。18歳の時に、海外旅行で南の島に行きました。ココナッツの木があったから、ココナッツジュースを飲みたくなって、現地の人に尋ねたんです。どこで買えますかって。すると彼は「ココナッツジュースは、買うものじゃない。こうやって飲むんだよ」と言って、スルスルと木に登って、実を落としてくれました。すぐにナイフで切って、ストローをさしてくれて。その姿を見て、お金で買うことしか考えてなかった自分が、恥ずかしくなりました。今もずっと、その時の気持ちが残っていて、お金を超える何かをどうしても求めてしまう。うちは金融機関だけど、私と似た思いを持った職員が多いと思います。だから、私は幸せですね。皆、言うこと聞かないですもん。今朝もケンカしたし。
──それをこの場で言える関係性が、いいですよね。
大人は、若者と関わって、かたまった思考をほぐしてもらうべき
──QUESTIONは、学生が集まる場にもなっていますよね。「失われた30年」っていう言葉があるじゃないですか。それを聞いて「僕らが生きてきた時代は、なかったってことですかね?」って言った学生がいて。失礼な話ですよね。希望しかない若者たちの前で、大人が勝手に絶望しているというのは。
新井:いつも思うのは、若い人が側にいないと、大人は思考が固まりやすい。大人側に、ほぐしてもらうために若者のところへお邪魔させてもらう、くらいの感覚が欲しいですね。教えてあげるっていう姿勢じゃなくて。おじさんたちは、本当に凝り固まっちゃってますから。今度、経営者が高校へ行って、経営者は経営を、高校生はSDGsを、お互い教え合うという試みをするんです。経営者1人を、高校生数名が囲む感じでね。どうなるかわからないけど、これも1つの社会実験です。
中村:参加者の方から、「好奇心を大事にしたくても、今の生活から抜け出せなくて、できない人も多いと思います。一歩踏み出すにはどうしたらいいですか?」と質問をいただきました。
私はめっちゃ簡単に踏み出せるタイプなんですけど、できない理由を紙に書き出してみることをおすすめします。色んな理由が出てきますよね、「恥ずかしい」とか「家族に反対される」とか。私はいつも、思いつく限りの理由を並べてみて、それらと、踏み出した時に得られるものを天秤にかけます。書き出してみたら、意外と大したことないなって思う場合もありますよ。ちゃんと天秤にかけた上で選択しているから、怖がりの私でも大胆に行動できるんです。
──なるほど。逆に僕は、ブルース・リーの名言「Don’t think. Feel!」のまんま、先に身体が動いちゃいます。後から理由を考える。
新井:多くの社会起業家を見てきて気づいたことがあって、優秀な人がこの社会を作っているわけではないんです。社会を作っているのは、あきらめの悪いやつ。あきらめきれない人たちです。日本の学校教育は、与えられた問題に答えることの繰り返しで、リアクションしかできない人を増やしてきました。でも、社会に必要なのは、何も与えられなくても自らアクションできる人。道がなくても、進もうとする人です。そういう人に必要なのが、人とのつながりなんですね。つながりを作る場が、このQUESTIONなんじゃないかな。
榊田:皆さんのお話から、色んなことを考えさせられました。世の中は急には変わらないけれど、循環型社会のことや、自然環境、そして人の幸せについて、これからも皆で会話しながら考えていきたいですね。皆でよってたかって、隣の人の課題を考える。自分が答えを持っていなくても、考えること、話すことに手間ひまを惜しまない。そういうコミュニティができていくと思います。我々も思いっきりお節介をやいて、皆さんと一緒にまちを良くしていきたいです。
──最後に、壁一面に素晴らしいグラフィックレコーディングを描いてくれたグローカル人材開発センター 外崎 佑実さんと、登壇者の皆さんに盛大な拍手を!本当に楽しい2時間でした。ありがとうございました。
京都大学総合博物館 http://www.museum.kyoto-u.ac.jp/
株式会社eumo https://eumo.co.jp/
株式会社minitts(佰食屋) https://www.100shokuya.com/
モデレーター:塩瀬 隆之さん 文・写真:柴田 明