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QUESTIONで紡ぐ、これからのコミュニティスペースのつくりかた | QUESTION TALK vol.21イベントレポート(後編)
2023年7月4日(火)、QUESTION TALK vol.21 『わたしたちのコミュニティスペースのつくりかた』を開催しました。
後半のトークセッションでは、株式会社ツナグムのタナカユウヤさんをモデレーターに、studio-L代表の山崎亮さん、QUESTION館長の森下容子さんが加わって、コミュニティスペースの実例やコミュニティに必要な仲間づくりなどについて語り合いました。
土肥 潤也さん(みんなの図書館さんかく 館長)
若林 拓哉さん(株式会社ウミネコアーキ 代表取締役)
山崎 亮さん(studio-L代表/コミュニティデザイナー/社会福祉士)
森下 容子さん(QUESTION 館長)
【モデレーター】
タナカ ユウヤさん(株式会社ツナグム 取締役)
──山崎さんと森下さんをゲストを迎えて、ここまでのお二方のお話も踏まえながらお話をしていきます。
山崎:studio-Lの山崎です。設計事務所に就職して公共空間を設計しているときに、ユーザーの意見を聞かずに設計することに居心地の悪さを感じていました。そこで2005年にstudio-Lという事務所を立ち上げて、地域の方々の意見を聞いて設計に反映させることを始めました。現在は、公共空間の設計に基づくワークショップだけではなく商業施設や病院など福祉、観光、防災などのワークショップを行っています。
森下:QUESTION館長の森下容子です。QUESTIONは地域の課題や事業の課題など「QUESTION(問い)」にコミュニティを作るきっかけがあるんじゃないかと考えて運営しています。立ち上げるまでは運営母体である京都信用金庫だけでなく、ユウヤさんや起業家の方、NPOの方と一緒にコンセプトづくりから行ってきました。
──まず、若林さんと土肥さんはどういう経緯でこの本を出すことになったんでしょうか。
若林:今回出版した「わたしのコミュニティスペースのつくりかた」の前に、ユウブックスの矢野さんという方と「小商い建築、まちを動かす!」っていう本を書いてたのが最初の繋がりです。その本は建築の中にある小商いスペースがテーマなんですが、そういう空間の運営にはいろいろ課題があって、それをまとめた本を作りたいと矢野さんに声をかけていただきました。
土肥:山崎さんがFacebookでさんかくについてのweb記事をシェアしてくれたのを矢野さんが見ていて、矢野さんが僕に連絡をくれて、若林さんとつながりました。
山崎:さんかくのことは、すごく面白いことやっている人いるねってうちの事務所でも噂になっていて。それを矢野さんがご本人に伝えてくれていたっていうのを今知りました。嬉しいですね。
──矢野さんはお二人をくっつけたら面白いなって感じておられたんですね。次に、お二人の本を読んでもらったり、トークを聞いてみての感想をいただきたいんですが、森下さん、今日のお話を聞いてどうでしたか。
森下:もっと早く読みたかった!(笑) というのが第一印象です。若林さんの指摘した「ハードとソフトは互いにフィードバックしあって作っていくことが重要」という点では、QUESTIONの準備期間は、まだ何をするか決まっていない時点から設計事務所の方にも伴走していただくことができて、やりたいこととそれを叶えるためのハードについて相談できてありがたかったです。でもこの本と出会っていたら、今以上に建物に自由度を持たせることができたかなと思います。
自分がやりたいわけじゃないのに上手くいったコミュニティスペースはない
──企業が運営する施設で、メンバーの異動もある中でどうやって現場感を共有していくのかという点について、チームや企業が運営する場に関わっててうまくいった事例があれば教えてください。
土肥:企業がコミュニティスペースを運営するとうまくいかない理由って、運営している人の当事者意識が湧いてこないことだと思います。部長や役員が「これをやりたい」って持ってきて、担当者が頑張るという感じでは、なかなかうまくいかないなと思うんですね。現場の当事者意識っていうか自分ごと化をいかに引き出すか、みたいなところはポイントの一つかなと思いますね。
若林:上に立つ人が求心力があるところは上手くいくんですけど、実働している方たちから出てきたものの発露としてこの場を作ったわけじゃないもので、上手くいった例って聞いたことがないです。
山崎:そう、自分がやりたいわけじゃないのに、やって上手くいった例はない。ただ先ほどQUESTIONを作るときに建築家の方に入っていただいて、自分たちが何をやればいいのか分からない段階からクリエイティブな人に入ってもらったっていうのは、ひとつのヒントかなと思いましたね。今までになかった発想をしてくれる人や、なぜそれやらなきゃいけないのかをちゃんと説明してくれる人を早めに仲間に入れておけると、すごく力強い。
仲間を集めるためには「とにかく地を這うこと」
──次に、場所に人が集まる仕組みってどういうふうに作るのかというテーマについて、これから作る皆さんにとって仲間ってどうやったら出会えるんでしょうかね。
土肥:みんとしょでも「場所を作ったけど、本棚オーナーが集まらない」っていう話は結構聞くんです。先週も、とある市役所の方に「コンテナショップを作ったが入居者が決まらない、どうしたら集まりますか」って質問されて、僕は「地を這え」って話をしたんです。例えば、新潟でみんとしょを運営している女性の話なんですが、その人に「絵本の読み聞かせが大好きなのでみんとしょを作りたい。どうしたらいいですか」って相談されたんです。「100人ぐらいにそのことをしゃべったらいいんじゃないですか」って軽い気持ちで言ったら、次の日からほんとうにFacebookでプレゼンを始めて、場所も決まってないのに本棚オーナーが30人決まって、その1ヵ月後に物件を貸してくれる人も見つかったと。 その人は9ヵ月ぐらいかけて新潟で絵本の読み聞かせ活動をやっている人を探して一つずつ連絡を取ったんです。地を這うってこういうことだなと思うんです。
──言ってみることって大事ですね。この会場だったら一気に50人ぐらい会えるわけですよ。ここで全員にプレゼンしたら本棚オーナー10人くらい見つかるかもしれない。人の巻き込み方で、他になにかできることありますかね。
若林:どういうモチベーションで仕事をしてるんだろうっていうことが場に現れて、それに対して惹かれる人たちが集まってくると思うんです。だから、コミュニティスペースは人間の魅力にどうしたって左右されると思っていて、その属人的な側面をどうやって空間に昇華できるんだろうかということは、ここにいる皆さんに聞いてみたいですね。
土肥:アイコンとして場に居るのは大切だなと思うときがたまにありますね。僕もオープンして3年経ったら館長をやめようと思ってたんです。それで「館長辞めます」って言ったら、すごい大反対をくらいました。
コミュニティデザイナーが地域から必要なくなることが一番の手柄
──スペースがあると属人になるのは仕方ない部分があって、一人に引っ張られていろんな文化がそこにできて、それが最終的に場の色になるのかなと思うことはありますね。
土肥:「まちライブラリー」っていう私設図書館の創始者である礒井純充さんって方に相談したんですよ、図書館を作りたいって。そしたら「土肥さんは向いてないからやめたほうがいいですよ」って笑いながら言われたんですよ。その真意は、場を立ち上げるエネルギーがある人は次から次にいろいろ作りたくなっちゃう、と。「土肥さん、今のうちから古本市やろうとしてるでしょ、市民大学とか考えてるでしょ」って言われちゃって。たしかに僕の企画書には市民大学も古本市も書いてあった(笑)
イベントばかりだと落ち着かない場所になっちゃうんですよね。じゃあどうしたらいいんですかって礒井さんに聞いたら「作ったらとっとと消えていって、場を維持できる人にどんどんお任せする」と。立ち上げる力と維持する力は別のものということを言われました。だから僕は物理的に場にいない方が良いんだと思っています。
──その力は確かに別な感じがしますね。山崎さんはいろんな場を作っていますが、仲間の作り方や維持についてはどう考えていますか。
山崎:社会学の理論なんですけれども、コミュニティは必ず最後は解散したほうがいいですよっていう話をよくします。形成期、つまり生まれた時はコミュニティ作ったぞって盛り上がっているんですけれども、しばらくするとだんだんメンバーの人となりがわかってきて喧嘩しはじめるわけですね。これを混乱期といいます。でもこれは順調なんです。人は何に向いてるのか混乱期のときに見えてきて、関係性が調整されるとようやくチームの中に秩序が生まれてくる。
山崎:こうして秩序期を越えると、コミュニティがようやく機能するようになってくる。機能期になるんですね。でも五段階目は散会期といって、解散する時期を設けます。そうでないと困るんです。四段階を経験した人が、その人たちだけでチームを組んでいたらその経験が地域に生かされない。だから、5年後とか10年後とかに必ず解散して、2人一組になってまた新しいチームを形成してくださいと伝えます。形成期に戻るとこの2人が10人くらい集めてまた新しいことを始めて、もれなく混乱期がきますから(笑)
──もしかしたらコミュニティスペースも、なくなったり変わったりすることを前提にしながら進めるべきなのかもしれないですね。
山崎:場はなくならなくてもいいですけど、コミュニティデザイナーやコーディネーターがいなくても回るという状態を目指したい。我々コミュニティデザイナーが地域から必要ないって言われることが一番の手柄だと思っています。まさに先ほどの土肥さんたちの話のように、自分たちがいなくても回っているという状態になるべく近づけたいなと思っていますね。
──最後に、コミュニティ施設を作った方やこれから作りたい方々に皆さんからメッセージをお願いします。
土肥:コミュニティスペースを作るってすごく面倒くさいなと思うんです。僕も勢いに任せてさんかくを作ったけど、最近ちゃんと収支を見るようになって、なんでこんなに儲からないことを一生懸命やってんだろうと。楽しく、無理せず続けられるっていうのが重要だと思います。
若林:建築をやっていると、僕らを建築家として扱ってくれる人の方が圧倒的に多い。でも、コミュニティスペースを作るときに話す人たち、おじいちゃん、おばあちゃん、子供たちには建築の言語ってどうでもいいんですね。今まで自分がいた世界とは違う人たちと話せるようになって、こんなにいろんな人がいるんだってことを知るきっかけになれることがすごく重要だなと思いました。建築って人間を相手にしている仕事なのに、人のことを全然知らないんだなって気付けました。
森下:利用者の関わりしろにはグラデーションがあってもいいと感じました。QUESTIONではまだ運営する側と利用される側という線引きがある場面があるので、そこは今後の目標にしたいと思います。
山崎: 建築の歴史を見ると、条件提示してくれれば良い空間作りますよっていう仕事は、ここ100年だけなんですよ。それより前は、答えが出ない悩みに対して整理したり、ビジュアルで示したりと、いろんなことをやっていた職業だったんですけれども、いつの間にかこれだけの条件で形作ってって言われるだけの人になってちゃったんですね。でもQUESTIONに関わってくれた建築家の方々は多分そのタイプじゃなかったんだろうと思うんですね。若林さんもそういう建築家なんだろうと思います。
山崎:あと、やっぱりしんどいことだと思うんですね、コミュニティと関わるって。儲かってないっていうのは、今のこの社会の中ではやってる意味がわからなくなる。皆さんはまず自分だけの空間を作った上でコミュニティづくりをやりましょう。自分が快適でしょうがない空間を事前に用意してから!(笑)
モデレーター:タナカユウヤさん
株式会社ウミネコアーキ
https://uarchi.jp/
みんなの図書館さんかく
https://www.sancacu.com/
studio-L
https://studio-l.org/