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“みんとしょ”と“ARUNŌ”から捉えるコミュニティスペースの現在地 | QUESTION TALK vol.21イベントレポート(前編)
2023年7月4日(火)、QUESTION TALK vol.21 『わたしたちのコミュニティスペースのつくりかた』を開催しました。
今回のテーマは「コミュニティスペースのつくりかた」。2023年2月に発行された『わたしのコミュニティスペースのつくりかた みんとしょ発起人と建築家の場づくり』(ユウブックス)の著者である土肥潤也さん、若林拓哉さんをお招きし、コミュニティスペースのハードとソフト面について、ご自身が立ち上げた施設のエピソードを交えながらお話しいただきました。
土肥 潤也さん(みんなの図書館さんかく 館長)
若林 拓哉さん(株式会社ウミネコアーキ 代表取締役)
山崎 亮さん(studio-L代表/コミュニティデザイナー/社会福祉士)
森下 容子さん(QUESTION 館長)
【モデレーター】
タナカ ユウヤさん(株式会社ツナグム 取締役)
ハードとソフトは対立する概念ではない
──今回はコミュニティスペースについて、ハードとソフト両方の観点からお話いただきます。まずはハードの部分で若林さんからお願いします。
若林:僕の会社は建築設計がメインなんですが、リサーチの企画や不動産の運営なども総合的にプロデュースしています。「建築家はハードだけつくってソフトを考えていない」と言われる点に僕自身も課題感をもっていて、どうしたらそれを改善できるのか考えながら日々活動しています。
若林:これまで手掛けてきたプロジェクトの「KDDI research atelier」(東京都)と「泊まれるオーガニックレストラン mujaqui むじゃき」(埼玉県)は、どっちも地域の誰もが入っていいよという空間なんですが、雰囲気やデザインが異なっています。誰でも入れるという前提を共有していても、与える印象が全然違ってきます。つまり、ハードにはソフトだけでは補えない価値があるんじゃないかと考えていますし、ハードとソフトは対立する概念ではなくて、むしろハードとソフトがフィードバックしあって場所を作っていくことが重要だと思っています。
元郵便局という立地のポテンシャルを活かした「ARUNŌ」
ARUNŌ -Yokohama Shinohara-
若林:僕たちが手掛けている「ARUNŌ -Yokohama Shinohara-」の元となったのは旧横浜篠原郵便局という1975年に建てられた建物です。老朽化に伴って取り壊すかどうかという話になり、郵便局って文脈が面白いと思ったことと、オーナーさんのご家族にも思い入れがあるとのことで、残して使いたいと思い、うちの会社でまるごとマスターリースしました。
ここをどんな場所にしようかと考えたとき、 地域の真ん中にあるという元郵便局としてのポテンシャルを活かした場所にしたいと考えました。次に郵便局らしさを考えたときに、ギフトを贈るとか、日々をおくるとか、「おくる」ための場所だと定義しました。そして「まだ知らないわたしに出会う」というコンセプトを立てて、「未知への窓口」と名付けました。
若林:建物の名前は、郵便局らしさと、社名の「ウミネコ」らしさを表現したいなと考えていろいろ検索し、シートン動物記に登場する「伝書鳩アルノー」をもとに日本語の読みをつけて「ARUNŌ(アルノー)」と名づけました。
全国の郵便局は、築年数が40年から50年くらい経って老朽化している。でも産業遺構として面白い構造をしているので、日本中で同じようなシチュエーションの施設を作りたくて、どこでも「アルノー」という名前をつけて郵便局を活用したいと考えています。
地域住民を消費者として扱わない
若林:僕らは地域住民を消費者として扱わないようにしています。今日はお客さんだけど明日はお店の人というような関係をコミュニティスペースを介してつくることが重要だと思っています。そもそも僕が現場にいられないことが多いので、みんながなるべく自分で考えることができるようになってほしくて、中の案内とかもみなさんに任せています。
──お客さんを消費者として扱わないという巻き込み方がとても良いですね。皆さんは定期的に集まるんですか。
若林:基本的にはSNSのグループ上でやり取りします。皆さんはご近所さん同士なので。報告は僕が直接聞かなくても誰か代わりの人が聞いてくれたらそれを連絡してもらえます。
──各地でこれからコミュニティスペースを運営していく人達にアルノーのモデルを横展開するのもありですね。
若林:勝手に姉妹提携結んでね(笑) そういうのがいいですね。
「まちが育て、まちを育てる」 みんなの図書館さんかく
──それでは次は土肥さん、お願いします。
土肥:僕は静岡県の焼津市で「みんなの図書館さんかく」を運営しています。もともと中学生や高校生のまちづくり参加や地域参加に関わるNPOを運営していて、さんかくを運営するまちづくり会社を3年前に共同創業しました。
土肥:本業はファシリテーターです。普段は学校に行って中学生、高校生向けのワークショップや公共施設を作るときのタウンミーティングでファシリテーションをする仕事をしています。 僕にとってのコミュニティスペースづくりは、ファシリテーションの延長線上にあると思っています。ファシリテーターが場づくりをする時の鉄則は、参加者が主人公であるということ、ファシリテーターがいかに目立たなくなるかだと思っています。
土肥:さんかくは、焼津の駅前通商店街にあります。焼津は人口が減少していて、税収もどんどん減っていっています。今までは公共施設を増やしていく議論の方が多かったんですが、これからは縮小させていくのか、どうやって自立させていくのかというフェーズに移っていて、誰か頼みでは限界がきていると思っています。
それを踏まえて、さんかくの意味は三つあります。まずは参加・参画です。どうすれば関わる人たちが主体的になってくれるかなってことを考えています。もうひとつは「三人寄れば文殊の知恵」と昔から言うように、この場に集まった人たちの課題や町の課題をみんなで解決できる場所にしたいなと思っています。公共というと分かりにくいので、「まちが育て、まちを育てる」をキャッチコピーにして取り組んでいます。
土肥:「みんなの図書館(みんとしょ)」は姉妹館が全国60ヵ所ほどあります。その特徴が「一箱本棚オーナー制度」と呼ばれる私設図書館の仕組みです。一箱を数千円で貸し出しますので自分の好きな本を貸し出していいですよっていう図書館です。さんかくではキャンセル待ちも出るくらいの人気ぶりです。普段は手に取らない本と出会えて、新しい出会いを与えてくれるのが一箱本棚のいいところだなと思っています。
運営費だけなら黒字ですけど、人を雇うとなると厳しくなります。そこで人件費を稼ぐんじゃなくて、人件費をかけないやり方ができないかと考えて、 店内の一角をチャレンジショップとして貸し出しています。無料で貸す代わり、ショップを出している間はみんとしょのお店番をしていただく仕組みです。本棚オーナーさんって2,000円も払っているとお店番もしたくなってきちゃうんですよ(笑) いろんな方がお店番をしてくださっていて、週に3日から5日間は勝手に開館しています。僕は二年ぐらい店を回していないですね。
「図書館」を開いてからのほうがいろんな人と知り合えた
土肥:そもそも「コミュニティスペース」って名前が良くないなと僕は思っています。コミュニケーション力が高くないと行っちゃいけないのかとか、行ったら自己紹介しなくちゃいけないんじゃないかとか。その点、みんとしょの場合「図書館」って名前がついているから、みんな安心して入ることができます。
僕は元々焼津で活動をしていたので、地域の人たちとつながっている自信があったんですよ。だけど図書館を開いてからのほうがはるかにいろんな人と知り合えました。今まで僕が出会った人たちって市民活動に関心がある人たちだけだったんだなと実感しています。
土肥:こうして活動しているうちに、商店街がだんだん変わってきました。ビールスタンドとかプログラミング教室とか、お店が増えました。さんかく効果とは言いませんが、商店街が可能性のあるエリアなんだなといろんな人が感じてくれたんじゃないかなと思います。
コミュニティスペース作りは二階建ての経営モデルを推奨しています。コミュニティスペースって儲からないんですよ。そこで、カフェや本屋のような流動収入に頼ってしまうと毎日の運営がしんどくなる。まず一階部分でちゃんとサブスクリプション型の収入を作って、二階部分で流動収入を作っていくのが大事かなと思います。
──実質的にみんなが運営する形になっているのは、もともとそういうふうにデザインしたんですか。
土肥:そうですね。若林さんと同じで、自分が物理的に運営に入る時間がないっていうのが大きいんじゃないかなと。ただ、みんなにとってどうでもいい場だったら誰もそこに関わらないで無くなっていっちゃうと思うんです。みんとしょをつくればお店がどんどん湧いてくるわけではないです。
──その部分ってなかなか仕組み化できないですよね。勝手に回るような運営に置き換えるには、そういう文化づくりが必要ですね。そこでコミュニティをつくって地域コミュニティを再生する、というのを3年くらいで実現されているのは、なかなか真似できないです。
モデレーター:タナカユウヤさん
株式会社ウミネコアーキ
https://uarchi.jp/
みんなの図書館さんかく
https://www.sancacu.com/
studio-L
https://studio-l.org/
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