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QUESTIONに関わる企業や個人にスポットを当ててご紹介する連載「Qパートナー紹介」。
“問いの交差点”QUESTIONに相談したい「問い」や、ここに集う人々と一緒に考えていきたい「問い」について紹介します。
第19回は、株式会社バイオーム 藤木 庄五郎さんです。
藤木 庄五郎
株式会社バイオーム 代表取締役1988年7月生まれ。大阪府出身。2017年3月京都大学大学院博士号(農学)取得。在学中、衛星画像解析を用いた生物多様性の可視化技術を開発。ボルネオ島の熱帯ジャングルにて2年以上キャンプ生活をする中で、環境保全を事業化することを決意。博士号取得後、株式会社バイオームを設立、代表取締役に就任。生物多様性の保全が人々の利益につながる社会を目指し、世界中の生物の情報をビッグデータ化する事業に取り組む。データを活かしたサービスとして生きもの図鑑アプリ「Biome」を開発・運営。経済産業省が認定する『J-Startup』にも選出。
生物多様性を保全するのは経済の領域
ーー藤木さんが持っている「問い」はなんでしょうか?
ぼくは元々、京都大学で生物多様性の研究をしていて、特に生物多様性を保全するためにはどうすればよいのかについて考えていました。その研究の中で、マレーシアのボルネオ島のジャングルを見て、生物多様性を保全するのは結局のところ経済の問題ではないかという考えにたどり着いたんです。
見渡す限りの地平線に広がる森林が伐採された風景を見たとき、経済の力の大きさを感じました。大学でやっていた研究とのスケールの違いを目の前にして、社会を変えていくには同じ大きさが必要だと痛感しました。
現地の村人が生きるために樹を切ることも、大きな資本が入って森林伐採をすることも、どの角度から見てもお金=経済です。この問題を解決するには、学問の領域ではなく経済という領域で活動しないと意味がないのでは、と考えるようになったんです。
経済の中で生物多様性を守ることこそビジネスにしないといけない、となると株式会社でないといけない。そこで2017年に大学を出てすぐ会社を立ち上げました。重要なきっかけは京都大学の時に起業のための講座を受講したことです。そこで起業家育成プログラムを受けて、最後にビジネスプランの発表をして最優秀賞をとり、他の先輩方から面白いビジネスモデルだねと評価してもらいました。背中を押してもらって、「よし、やるか」と思いました。
ーーそもそも生物多様性に興味を持たれたきっかけは何だったんでしょうか?
子どもの頃から生態系に興味がありました。よく釣りに行って、フナを釣っていましたが、ブラックバスとかブルーギルとかいった外来種が放流されていつの間にか外来種しか釣れなくなりました。生態系が壊れていっていることが感じられて、強く不安に思いました。
それで、外来種がどうやって広がっているのかなど、生態系について自分で調べるようになりました。どんどん興味が深まっていって、小学5年生の時に世界の砂漠を緑にするために生涯をかけて取り組んでいる鳥取大学の遠山正瑛先生の本を読んでむちゃくちゃかっこいいなとあこがれたんです。そこから農学部をめざし、生態系を守っていくことを研究としてやっていきたいと思うようになりました。
ーーずっと生き物にご興味があったんですね。立ち上げた社名の由来はなんでしょうか?
バイオームの名前は生態系の専門用語で「生態群系」に由来しています。生き物の群れのシステムを指す単位の一番大きなものです。生物の大きな群れを扱っていくサービスをする企業にしたいというところから考えつきました。
ーー起業されてからのご苦労を聞かせてください。
いっぱいありますが、先ず第一に生物多様性をビジネスにするのは当時無茶だと思われていたことです。どうやってお金を儲けるのかと延々と言われました。環境保全の中でも、生態系を守ることをビジネスにするという考え方が社会になかったものですから、「ボランティアやNPO法人でいいじゃないか」と。投資家から資金が集まらなくて、2年ぐらいは無給で仕事をしていました。お金がないのでエンジニアを雇用することもできなくて、自分達で独学でアプリを開発しました。全部自前で行うのは大変でした。
そんな時、2018年に京都信用金庫の「京信・地域の起業家大賞」に選んでもらえました。まだアプリもできておらず構想だけでしたが、選んでもらえたことがきっかけで行政の目に留まって少しずつ資金が確保でき、仕事をいただけるようになりました。
生物界のグーグルになりたい
ーー10年後、20年後のご自身の事業についてお聞かせください。
生物界のグーグルになりたいですね。世の中にあるものを人工的に作られたものと天然に出来たものに分けたとき、グーグルは人工的に作られたものを検索できて、バイオームは天然、自然の物を検索できる、というのを目指しています。
現在、バイオームが開発したアプリを国内で65万人に使ってもらっています。
もっと国内の多くの方、例えば100万人ぐらいに使ってもらいたいです。データも400万件近くストックできているし、これを1,000万、1億件ぐらいに増やしたいですね。最終的には海外、世界中の、生き物が好きな方を集めてデーターをストックしていくことを目指しています。
もう一つは社会のインフラになっていきたいです。企業・行政へツールを提供していくことで生物のデータベースとして活用してもらえます。例えば京都市の生物多様性戦略を作っていくための基礎にしてもらうとか。また企業がSDGsをテーマに何かを行うとき、ぼくたちのデータやアプリを使ってもらえればと思います。
ーーご自身の「問い」が解決したら、どのような社会になると思いますか?
1000年後の未来でも今の地球の生物が維持されている、経済と環境の保存ができる社会です。今のままでは100年後には生物の50%がいなくなると言われています。そうならないように地球が存続できるようにしたいです。今は地球温暖化などの環境変化のスピードに比べて対応が遅いように感じています。バイオームのアプリの狙いは、ユーザーが種族を見つけて生き物を大事にする価値観に変わっていくことです。
ーーQUESTIONに期待していること、一緒にやりたいことがあればお聞かせください。
最近ではZOOMやオンライン上のプラットフォーム系サービスは数多くありますが、ネット上では生み出せない価値が現場にあると思います。その価値を生み出せるプラットフォームになってほしいです。例えば自分の知らない人達に会える、困ったときに行けば誰かに会えて解決するきっかけになる場所とか。分野を問わずありとあらゆるプレイヤーが集まってくれれば効率も良いですし、動ける人を集めてほしいと思います。ぼくは人と出会うことってすごく大変なことだと苦労して知っているので。ふらっと立ち寄れる場所であってほしいですね。
(QUESITON 保利 雅彦)
<パートナー概要>
組織名:株式会社バイオーム
Webサイト:https://biome.co.jp/